移動販売






中華料理の移動販売車(ハーバード大学にて)





ホットドッグ(アムステルダム)





吉野家 オレンジドリーム号




じゃがバーガー





リヤカーに専用釜を積んだ石焼き芋売り


移動販売(いどうはんばい、英: mobile catering)は、自動車などで運んで来た商品を、常設の店舗以外で販売する小売業の形態。無店舗販売や行商の一種である。


住宅街やオフィス街、駅前、イベント会場など需要の見込まれる地域で行われるほか、小売店が存在しないまたは極めて少ない過疎地などの買い物難民(買い物弱者)対策として導入される例もある。




目次






  • 1 概要


  • 2 日本の移動販売


    • 2.1 主に扱われる商品


    • 2.2 軽トラ市




  • 3 移動スーパーマーケット・移動コンビニ


  • 4 拡声器騒音問題


  • 5 アメリカの移動販売


  • 6 脚注


  • 7 関連項目


  • 8 外部リンク





概要


移動販売は常設の小売店舗を設けず、トラック等の車両に商品を積載して、移動しながら商品を販売する無店舗販売の方法である[1]。個々の住宅やオフィスに赴くのは訪問販売、顧客から注文を受けて商品を届けるのは配達・配送と呼ぶことが多い。近年では常設店舗を拠点として、近隣地域を巡回する移動販売も行われている[2]


扱われる商品は野菜類、果物類、魚介類その他食品、雑貨、衣料などである[1]。軽食や弁当を売る屋台(軽トラックも含む)などもある。低価格の商品が多く、基本的に売り切りで現物・現金取引である。


移動式の利点を活かして大規模商業施設や小売店舗に近接して店を開き、通行客などを相手に商売を行う所謂「こばんざめ商法」がとられることもある[3]



日本の移動販売


移動販売の手法は江戸時代以前より存在していた。江戸などの屋台や、村々を回った行商人を含め歴史は長い。


現代においては個人による経営や零細業者が大半を占めるが、フランチャイズ方式などによる大規模化を図る業者も増えつつある(移動スーパーを運営する「とくし丸」など)。


かつては駅前やアーケード街の通りで、たこ焼き、ラーメンといった軽食や雑貨・アクセサリーなどを販売する業者が珍しくなかった。その後、路上占有規制の強化や臭気・排水に対する近隣住民などの苦情などが原因で、近隣の認可が取れた特定地域以外で営業する業者は減少した。また食品を調理販売する際は保健所の許可が必要なため、食品衛生面での規制という課題もある[4]


この点で、街の賑わいを重視して「移動販売車」や「移動屋台」を認可制にしている欧米や、店舗を借りる余裕もない零細業者が需要を満たすために移動店舗として都市部に集まる新興国とは様相が異なる。


東日本大震災の際には、被災して営業できないコンビニエンスストア店舗の周辺地域で、セブン-イレブンやローソン、ファミリーマートといった大手コンビニチェーンがコンビニの商品を揃えた移動販売車を運行した。


なお、移動販売に用いる車両は運賃を顧客から徴収することはないため、ナンバープレートは自家用(白ナンバー)でも構わないが、特種用途自動車として8ナンバーを取得する例も多い[5]



主に扱われる商品




弁当類

平日のオフィス街や官庁街、工業団地、倉庫街などでは、そこで働く労働者等を対象に昼食が販売されている。


軽食類

日本では石焼き芋(主に冬季)や蕨餅(主に夏季)が代表的だが、近年ではメロンパン、いか焼き、コロッケ、ホットドッグ、ケバブ、ラーメン、焼き鳥、たこ焼き、クレープ、ソフトクリームなど品目が多様化している。住宅街の他、商店街やビジネス街、ショッピングセンターの店内入り口前等で販売されることも多い。イベント会場へのケータリングを兼ねることがある。

食料品

住宅街を中心に、豆腐や惣菜、パン、牛乳、産地直送の野菜・鮮魚・鶏卵などが販売されている。高齢化や買い物難民の増加による新たな需要も生じている。

灯油

住宅街を中心に、冬季に巡回販売が行われる。1990年代以降に急増。閉めきった住宅の中でも聴こえるように、規制違反の音量で音楽を流す営業が常態化しており、騒音問題となっている。

物干しざお


金物店が配達の道すがらに販売することもあるが、一部の悪徳業者による竿竹商法などトラブルになることもある。



軽トラ市


軽トラ市とは、軽トラックの荷台を店舗に見立てた臨時の市場であり、商店街の駐車場やパーキングエリアなどに移動販売車が集結し、食品や地方の特産品を販売する目的で催されるイベントの一種である[6]。2005年に雫石町で地域活性化を目的として始められ、全国的な広がりを見せている[6]



移動スーパーマーケット・移動コンビニ




和歌山県のスーパー松源の「マツゲン生鮮移動スーパー」(2014年)。




九州の移動スーパー「寿屋ママサン号」。





ファミリーマート南相馬小高店の「ファミマ号」(2013年)。


高度経済成長により、大都市圏郊外ではベッドタウンや団地の造成が急激に進んだ。居住人口の激増に対して、既存の商店街やスーパーマーケット、百貨店などが需要を吸収できない事態が各地で発生するようになった。


そこで産み出されたのか、移動スーパーである。マイクロバスや小型トラック、軽トラックを改造[7]し、鮮度保持用のショーケースを並べ、多様な食品や雑貨を扱った。このため「移動スーパーマーケット」と呼ばれるようになった。


この当時は、地場で複数店舗を構える個人商店や中堅スーパーなどが運営していたものがほとんどで、徒歩や自転車移動可能な近隣に商店街やスーパーの進出が遅れている新興団地を主な商圏とした。予め巡回する日時やコース、営業場所が設定されており、新居を手にした団塊世代などの食品の購入に少なからず貢献を果たした。


また各地に生まれた工業団地では、従業員の昼食用弁当や軽食、作業用小物を売る移動スーパーも現れた。やがて日本でのモータリゼーションの発展や郊外スーパーの進出、エリア内に店舗を併設した大規模住宅団地の開発増加、さらにコンビニエンスストアの定着により、昭和60年代~平成初頭までには移動スーパーの需要は薄れた。


ところが、全国的な郊外大規模スーパーの飽和問題と前後して、地方の山間部などでは少子高齢化による過疎化が深刻な問題となりつつあった。過疎地域で細々と営業していた店舗が廃業するだけでなく、地方鉄道や路線バスの廃止・減便により、自家用車を運転しない高齢者らが大型スーパーや近隣市町の商店街に出掛けることが難しいエリアが広がった。こうした買い物難民の生活を支えるため、移動スーパーが見直されることとなった。


買い物難民対策として復活した移動スーパーは、地元で営業している個人商店やスーパーマーケット、生活協同組合のほか、大手コンビニチェーンも参入している[8]。多くは巡回する日時を決めて、集落にある空き地や特定の民家の軒先に乗り付けて販売を行う。路線バスが減便・撤退したなど交通手段の限られた限界集落に住む高齢者にとって、今や商品の貴重な入手手段となっており、自治体が移動販売の導入を要請・支援するケースも多い。


また前述のように、その機動力を活かして災害被災地での物資供給ルートとして機能するケースもある。



拡声器騒音問題


スピーカー(拡声器)を使用する巡回販売については騒音のトラブルが多い。拡声器による商業宣伝については、1989年(平成元年)の旧環境庁の通達[9]により、各都道府県に条例によって音量や使用方法の規制が設けられている[10]。一般に、住居地域では音量が55ないし60デシベルまでとなっており、学校、病院等の周辺でのスピーカーの使用は禁止である。


住宅街を巡回する移動販売車(とりわけ大音量の灯油の巡回販売等)や廃品回収車はほとんどが規制に抵触しているが、対象が移動車両であり確保や音量測定が困難なこと、商業拡声器の規制が認知されていないこと、住民・地元自治会の苦情や行政の指導に従わない業者が多いこと、苦情や注意・指導を受けても単に当該地域のみの巡回を取りやめたり、別の地域に移動してしまうだけであること、日本においては拡声器の使用に比較的寛容な風土があり、近隣に利用客がいると騒音被害を訴えにくいことなどから、ほぼ野放しとなっているのが実状である。このような住宅街で拡声器を使用する巡回販売は諸外国には見られず[11]、選挙カーとあわせて、日本特有の奇妙な事象のひとつとして紹介されることも多い。


現在のところ、一部の地域を除いて能動的な取り締まりは行われていないが、近年、業者の組織化・大規模化により営業車両が増加していること(数百台という車両を所有する企業も存在する)、悪質な業者が多いことから、騒音苦情が増加しており、中野区・台東区等パトロールに乗り出している自治体もある。違反車両に対しては、住民の苦情相談や通報を受け、自治体の環境・公害担当課や警察が指導および取り締まりを行う。


環境省発表によると、2009年度の拡声機に係る苦情は対前年度で27.7%増加している[12]


以下に自治体への騒音苦情と対応の例を示す。



  • 堺市 - 拡声器による騒音について

  • 名張市 - 灯油販売車両による騒音


また住民自治による対策として「拡声器使用による営業行為は禁止です」等、町内会やマンション管理組合で警告の看板を設置したりしているケースも見られる。



アメリカの移動販売


アメリカ・ニューヨークのマンハッタンでは、ウィーン風カツレツ、マカロン、アイスクリーム、カップケーキ、ペイストリーなど多様なグルメ屋台が移動販売を行っている[13]。アイスクリームトラックによるアイスクリーム(ソフトクリーム)販売は、Mister Softeeが最大手[14]



脚注




  1. ^ ab流通・販売用語研究会『流通・販売用語辞典』、1990年、11頁


  2. ^ 「ローソン青梅東青梅四丁目店」を拠点にした青梅市中山間地域での移動販売を開始ローソンのプレスリリース(2017年10月6日)


  3. ^ 流通・販売用語研究会『流通・販売用語辞典』、1990年、81頁


  4. ^ サラリーマンの懐を直撃!ワンコイン弁当が消えるかも…「食の安全」理由に東京都が今秋から規制強化へ産経新聞ニュース(2015年6月13日)


  5. ^ 働くクルマたち 第4回 移動販売車 日本自動車車体工業会 (PDF)

  6. ^ ab佐藤正弘 原田保(編)「移動フード販売のスタイルデザイン」『食文化のスタイルデザイン』<地域デザイン学会叢書> 大学教育出版 2015 ISBN 9784864293389 pp.154-157.


  7. ^ ナニコレ珍百景2015年7月15日放送分ではダイハツ・ハイゼットベースの移動セブン-イレブンが取り上げられた。


  8. ^ セブン、福井に移動コンビニ 北陸で初 北海道新聞(2017年7月21日)2017年7月23日閲覧


  9. ^ 商業宣伝等の拡声機放送に係る騒音の防止対策の推進について(環境省)


  10. ^ 環境確保条例の拡声機に係る基準(東京都) 拡声機の使用(大阪府) など


  11. ^ 参考資料2:「諸外国における拡声機放送に係る騒音に関する規制の状況」 (PDF)


  12. ^ 平成21年度騒音規制法施行状況調査について


  13. ^ 不況が生んだグルメ屋台ブーム、米ニューヨーク AFP、2010年8月31日


  14. ^ Ulrich, Lawrence (2016年4月4日). “Behind the Scenes at Mr. Softee's Ice Cream Truck Garage”. The Drive. http://www.thedrive.com/travel/2848/behind-the-scenes-at-mr-softees-ice-cream-truck-garage 2017年4月2日閲覧。 




関連項目



  • 食堂自動車

  • 特種用途自動車


  • 買い物難民・食の砂漠

  • シャッター通り


  • 過疎地域・限界集落

  • 少子高齢化

  • 交通弱者

  • ケータリング

  • ホットドッグカート


  • 屋台・行商


  • 振売・棒手売

  • アイスクリーム販売車

  • 軽食販売車(英語版)



外部リンク




  • 商業宣伝等の拡声機放送に係る騒音の規制等対策について (PDF) (環境庁大気保全局特殊公害課)


  • 「人と音のコミュニケーションに関する調査研究―市民生活と音環境―」(財団法人サウンド技術振興財団)


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