ロミオとジュリエット
『ロミオとジュリエット』(または『ロメオとジュリエット』、Romeo and Juliet )は、イングランドの劇作家ウィリアム・シェイクスピアによる戯曲。初演年度については諸説あるが、おおむね1595年前後と言われている。
目次
1 概要
2 登場人物
2.1 キャピュレット家
2.2 モンタギュー家
2.3 ヴェローナ太守
2.4 その他
3 ストーリー
3.1 第一幕
3.2 第二幕
3.3 第三幕
3.4 第四幕
3.5 第五幕
4 書誌
5 物語の成立と変遷
6 翻案
6.1 ミュージカル
6.2 映画
6.3 テレビドラマ
6.4 小説
6.5 オペラ
6.6 バレエ
6.7 音楽
6.8 漫画・アニメ
6.9 ゲーム
7 脚注
8 参考文献
9 関連項目
10 外部リンク
概要
『ロミオとジュリエット』は悲劇とされ、シェイクスピア死後に刊行された全集(後述の「第一・二折本」)の分類も同じである。しかしながら四大悲劇(『ハムレット』、『マクベス』、『オセロ』、『リア王』)とは主題が異なるため、同じ恋愛悲劇である『アントニーとクレオパトラ』などと並べて論じられることが多い[1]。
『ロミオとジュリエット』は恋愛悲劇であるが、若い恋人たちが社会によって課された障壁をはねのけて愛を成就させようとするという事柄はむしろ伝統的な恋愛喜劇に近いものであり、その話の運びには『夏の夜の夢』などのシェイクスピアによる他のロマンティック・コメディとの類似が認められる[2][3]。これを反映して全体的に悲劇としては喜劇的に見える表現、ジャンルの境界を曖昧にするような表現が見受けられ、笑劇的でいくぶん粗野とも見えるような冗談、とくに性的な言葉遊びが非常に多く用いられている作品である[4]。
イタリアを舞台とし、イタリアに起源を持つ作品のため、Romeo には古くから「ロメオ」の表記が用いられていたが、近年は英語読みで「ロミオ」と表記されることが多い(必ずしも英語発音に忠実ではない)。そのため、映画の邦題では日本公開年によって表記が異なっている。また、クラシック音楽およびバレエの分野では現在でも慣習的に「ロメオ」の表記が用いられている。
登場人物
キャピュレット家
- ジュリエット - キャピュレットの娘
- キャピュレット - キャピュレット家の家長
- キャピュレット夫人 - キャピュレットの妻
- ティボルト - キャピュレット夫人の甥
- ジュリエットの乳母
モンタギュー家
- ロミオ - モンタギューの息子
- モンタギュー - モンタギュー家の家長
- モンタギュー夫人 - モンタギューの妻
- ベンヴォーリオ - モンタギューの甥、ロミオの友人
- バルサザー - ロミオの従者
ヴェローナ太守
- エスカラス - ヴェローナの太守(Prince of Verona)、公爵
- パリス - 貴族の青年、太守の親戚
- マーキューシオ - エスカラスの親戚、ロミオの友人
その他
- ロレンス - フランシスコ会の修道僧
- ジョン - フランシスコ会の修道僧
- 薬剤師
ストーリー
舞台は14世紀のイタリアの都市ヴェローナ。ヴェローナは、1239年に神聖ローマ帝国の皇帝フリードリヒ2世の協力を得て、近隣のロンバルディア同盟諸国を征服し、その絶頂期にあったが、ローマ教皇グレゴリウス9世はフリードリヒ2世を反キリストであると非難して近隣ロンバルディア同盟諸国を擁護し、再破門したことから戦争となり、以来ヴェローナの支配層は教皇派と皇帝派(ゲルフとギベリン、英: Guelphs and Ghibellines)に分かれて熾烈な争いが繰り広げられるようになった。皇帝派(ギベリン、英: Ghibellines)のモンタギュー家(モンテッキ家)と教皇派(ゲルフ、英: Guelphs)のキャピュレット家(カプレーティ家)も、血で血を洗う抗争を繰り返すことに巻込まれていた。
モンタギュー家の一人息子ロミオは、ロザラインへの片想いに苦しんでいる。気晴らしにと、友人達とキャピュレット家のパーティに忍び込んだロミオは、キャピュレット家の一人娘ジュリエットに出会い、たちまち二人は恋におちる。二人は修道僧ロレンスの元で秘かに結婚。ロレンスは二人の結婚が、両家の争いに終止符を打つきっかけになることを期待する。
しかしその直後、ロミオは友人とともに街頭での争いに巻き込まれ、親友・マキューシオを殺されたことに逆上したロミオは、キャピュレット夫人の甥ティボルトを殺してしまう。このことからヴェローナの大公エスカラスは、ロミオを追放の罪に処する。一方、キャピュレットは悲しみにくれるジュリエットに、大公の親戚のパリスと結婚する事を命じる。
ジュリエットに助けを求められたロレンスは、彼女をロミオに添わせるべく、仮死の毒を使った計略を立てる。しかし、この計画は追放されていたロミオにうまく伝わらなかった。そのためジュリエットが死んだと思ったロミオは、彼女の墓で毒薬を飲んで自殺。その直後に仮死状態から目覚めたジュリエットも、ロミオの短剣で後追い自殺をする。事の真相を知って悲嘆に暮れる両家は、ついに和解する。
第一幕
- プロローグ - 序詞
- 第一場 - ヴェローナ、広場にて
- 第二場 - 街頭にて
- 第三場 - キャピュレットの館の一室
- 第四場 - 街頭にて
- 第五場 - キャピュレットの館の大広間
第二幕
- プロローグ - 序詞
- 第一場 - キャピュレット家の庭園、それを囲う塀沿いの小道にて
- 第二場 - キャピュレット家の庭園
- 第三場 - 修道僧ロレンスの庵にて
- 第四場 - 街頭にて
- 第五場 - キャピュレット家の庭園
- 第六場 - 修道僧ロレンスの庵にて
第三幕
- 第一場 - 広場にて
- 第二場 - キャピュレット家の庭園
- 第三場 - 修道僧ロレンスの庵にて
- 第四場 - キャピュレットの館の一室
- 第五場 - キャピュレット家の庭園
第四幕
- 第一場 - 修道僧ロレンスの庵にて
- 第二場 - キャピュレットの館の大広間
- 第三場 - ジュリエットの部屋
- 第四場 - キャピュレットの館の大広間
- 第五場 - ジュリエットの部屋
第五幕
- 第一場 - マンチュア。街頭にて
- 第二場 - 修道僧ロレンスの庵にて
- 第三場 - 墓地、キャピュレット家の霊廟のなか
書誌
1597年に発行された「第一・四折本」(First Quarto)が、シェイクスピア作の『ロミオとジュリエット』が出版物として現れた最古のもの。これは、上演の速記録などを基礎にして製作され、作者の許可なく刊行されたものと推定されている。不完全な部分も多いが、実際の上演の様子を反映しており、資料的価値は決して低くない。1599年に刊行の「第二・四折本」(Second Quarto)は、シェイクスピア自身が手を加えた原稿を用いているとされ、現在我々が知る『ロミオとジュリエット』の原型となっている。
以上の「第一・四折本」「第二・四折本」に加え、シェイクスピアの死後、1623年に出版された初の全集「第一・二折本」(First Folio)の三種類が、『ロミオとジュリエット』の古刊本として重要視されており、その後に刊行される『ロミオとジュリエット』の底本となっている。
物語の成立と変遷
シェイクスピアの全戯曲のほとんどは、既存の物語やエピソード、詩などをベースに翻案したものである。シェイクスピアが『ロミオとジュリエット』を書くにあたって直接種本としたのは、アーサー・ブルックの物語詩『ロミウスとジュリエットの悲しい物語』(1562年、イギリス)と言われている。が、ブルックのこの作品が文学史に登場する過程は複雑である。
ロミオとジュリエットの物語の成立は、西欧の民間伝承やギリシアの古典物語に端を発している。中でも特に有名なのは、古代ローマの詩人オウィディウスがギリシアの神話に基づいて著した『ピュラモスとティスベ』で、シェイクスピアは『真夏の夜の夢』の中でも『ピュラモスとティスベ』の話題を取り上げている。
ナポリにて1476年に出版されたマスチオ・サレルニターノ作の小説集には、シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』の原型と思われるエピソードが登場する。その作中には、修道士の仲介、計略が失敗する過程など、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に近いモチーフが含まれている。ただし物語の舞台はシエーナで、恋人達の名前はマリオットとジアノッツァである。
ルイジ・ダ・ポルトが書いた物語(1530年、イタリア)では、舞台はヴェローナに、主人公二人の名もロメオとジュリエッタになっている。物語の筋や登場人物もシェイクスピアの作にかなり近づいているが、ダ・ポルト版の特筆すべき相違点としては、ロメオが毒を仰いで死ぬ直前にジュリエッタが目を覚まし、抱きしめ合いながら言葉を交わすシーンがある。
マッテオ・バンデルロは『小説集』(1554年、イタリア)のなかで、ロミオとジュリエットの物語を書いている。このなかには、パリスや乳母に該当する人物も現れており、ジュリエットが仮死の水薬を飲む過程も、シェイクスピアの作品にかなり近い。マッテオ・バンデルロの物語は、1559年にピエール・ボエステュオーによってフランス語訳され、出版された。ボエステュオーは、物語全体に修辞や感傷的表現を増やし、ジュリエットが仮死から目覚める前に、ロミオは死んでしまうように改訂した。
ボエステュオーの訳本は、数年後には英訳された。それが、先に挙げた『ロミウスとジュリエットの悲しい物語』と、ウィリアム・ペインターの散文『ロミオとジュリエッタ』(1567年、イギリス)の二つである。
ロミオとジュリエットの物語は、対立する二つのグループと、それに翻弄され悲しい結末へ至る恋人達という、時代や文化背景を越えた、普遍性のあるドラマ的構図を含んでいる。それ故に、古代の民間伝承から中世のシェイクスピアに至るまでの間、何度も翻案をされ続けてきた。
シェイクスピア作の『ロミオとジュリエット』は、彼の属していた宮内大臣一座の人気の演目として、観客達に受け入れられた。その後の時代でも、欧米を中心に、様々な演出家、俳優達によって、多くの劇場で何度も上演された。時にはオペラやバレエに翻案されることもあった。上記で紹介した種本が、戯曲化されて上演されることもあった。現代においては映画などの分野でも、題材として取り上げられている。
翻案
ミュージカル
ウエスト・サイド物語 - アーサー・ローレンツ作、レナード・バーンスタイン音楽、ジェローム・ロビンス演出、1957年初演、アメリカ(ロミオとジュリエットを現代アメリカに翻案したもの)
ロミオとジュリエット - ジェラール・プレスギュルヴィック作詞・作曲、2001年初演、フランス。2010年宝塚歌劇団により日本初演。2011年2月17日より東京宝塚劇場にて雪組により公演。2011年9月7日-10月2日、赤坂ACTシアターにて、東宝版上演。2013年秋、シアターオーブ他にて一部キャストを変更して東宝版再演。- シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』の初の続編作品として『ロミオとジュリエットその後/After Romeo & Juliet』が、2013年3月11日〜14日、東日本大震災の復興支援チャリティー・ミュージカルとして岩手県陸前高田市、東京新宿、大阪梅田の3ケ所で、主演:川﨑麻世、紫とも、朗読:杉浦幸(脚本・音楽・プロデューサー: ジャンモンド)により初演。サウンドトラック音楽映像作品DVD『RE:MONDE(地球再生)』が2013年4月12日、米国ロサンゼルスで開催の「MTVミュージック・ビデオ・アワード」公式イベントに出展された。
映画
ロミオとジュリエット - ジョージ・キューカー監督、1936年、アメリカ、R(ロミオ):レスリー・ハワード、J(ジュリエット):ノーマ・シアラー
ロミオとジュリエット - レナート・カステラーニ監督、1954年、イギリス、R:ローレンス・ハーヴェイ、J:スーザン・シェントル
- ロメオとジュリエット物語 - レオ・アルンシュタム、レオニード・ラブロフスキー監督、1954年、旧ソ連、R:U・ジダーノフ、J:ガリーナ・ウラノワ
- ロミオとジュリエット - リカルド・フレーダ監督、1964年、イタリア、R:ジェロニモ・メニエル、J:ローズマリー・デクスター
ロミオとジュリエット - フランコ・ゼフィレッリ監督、1968年、イタリア、R:レナード・ホワイティング、J:オリビア・ハッセー
ロミオ+ジュリエット - バズ・ラーマン監督、1996年、アメリカ、R:レオナルド・ディカプリオ、J:クレア・デインズ
ロミオとジュリエット - カルロ・カルレイ監督、2013年、イタリア・アメリカ、R:ダグラス・ブース、J:ヘイリー・スタインフェルド
テレビドラマ
- ロメオとジュリエット - パウル・ツィンナー監督、1966年、イギリス、R:ルドルフ・ヌレエフ、J:マーゴ・フォンテイン
- ロミオとジュリエット - アルヴィン・ラーコフ監督、1978年、イギリス、R:パトリック・ライアート、J:レベッカ・セイアー
- 映画みたいな恋したい〜ロミオとジュリエット - 1991年、日本、R:木村拓哉、J:杉山亜矢子?
ロミオとジュリエット 〜すれちがい〜 - 2007年、日本、R:滝沢秀明、J:長澤まさみ
未来世紀シェイクスピア - 2008年、日本(関西テレビ)、R:日高光啓(AAA)、J:上原さくら、宇野実彩子(AAA)
小説
- 村のロメオとユリア - ゴットフリート・ケラー作
オペラ
- ジュリエッタとロメオ - ニコラ・ヴァッカイ作曲(1825年初演)
- カプレーティ家とモンテッキ家 - ヴィンチェンツォ・ベッリーニ作曲(1830年初演)
ロメオとジュリエット - シャルル・グノー作曲(1867年初演)- 村のロメオとジュリエット - フレデリック・ディーリアス作曲、上記ケラーの小説に基づく(1901年作曲、1907年初演)
- ロメオとジュリエット-ズーターマイスター作曲(1940年作曲)
バレエ
コンスタント・ランバート作曲 (1926年初演)
セルゲイ・プロコフィエフ作曲 (1936年作)
ヴァンヤ・プソタ振付 - 1938年初演、ブルノ歌劇場バレエ団
レオニード・ラブロフスキー振付 - 1940年初演、キーロフ・バレエ
ジョン・クランコ振付 - 1958年初演、ミラノ・スカラ座バレエ団
ケネス・マクミラン振付 - 1965年初演、英国ロイヤル・バレエ団
ジョン・ノイマイヤー振付 - 1971年初演、フランクフルト・バレエ団
ルドルフ・ヌレエフ振付 - 1977年初演、ロンドン・フェスティバル・バレエ
カバレフスキー作曲(1956年作曲)
音楽
- 劇的交響曲『ロメオとジュリエット』エクトル・ベルリオーズ(1839年作曲、1839年初演)
- 幻想序曲『ロメオとジュリエット』ピョートル・チャイコフスキー(1869年作曲、1870年初演)
漫画・アニメ
鉄腕アトム「ロビオとロビエットの巻」 - 手塚治虫作、日本
宇宙人レポート サンプルAとB - 藤子・F・不二雄作、日本
ロミオ×ジュリエット - 追崎史敏監督、日本
異能バトルは日常系のなかで - 望公太作、日本[要検証 ]
寄宿学校のジュリエット - 金田陽介作、日本
ゲーム
- mabinogi-マビノギ-メインストリームG14Romeo and Juliet-NEXON Korea開発、韓国
グランブルーファンタジーゲーム内イベント「届かないほど、近くのあなたへ」 - Cygames開発、日本
グリムノーツ-作中に登場するほか、これをモチーフとした「氷と炎のファンタジア」が登場-スクウェア・エニックス開発、日本
脚注
^ Martha Tuck Rozett, 'The Comic Structures of Tragic Endings: The Suicide Scenes in Romeo and Juliet and Antony and Cleopatra,' Shakespeare Quarterly 36:1 (1985): 152–64;
^ Susan Snyder, The Comic Matrix of Shakespeare's Tragedies: Romeo and Juliet, Hamlet, Othello, and King Lear (Princeton University Press, 1979, pp. 56-70)
^ Martha Tuck Rozett, 'The Comic Structures of Tragic Endings: The Suicide Scenes in Romeo and Juliet and Antony and Cleopatra,' Shakespeare Quarterly 36:1 (1985): 152–64;
^ Mary Bly, 'Bawdy Puns and Lustful Virgins: The Legacy of Juliet's Desire in Comedies of the Early 1600s', Shakespeare Survey 49 (1996): 97–109, p. 97.
参考文献
日本における『ロミオとジュリエット』 佐野昭子、『帝京大学文学部紀要― 米英言語文化』第37号、平成18年度
関連項目
- ロミオとジュリエット効果
ロメオ y ジュリエッタ(葉巻)
ヴェローナ市街
外部リンク
『ロミオとヂュリエット』:旧字旧仮名 - 青空文庫(坪内逍遥訳)
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