女必殺拳シリーズ
『女必殺拳シリーズ』(おんなひっさつけんシリーズ、Sister Street Fighter )は、1974年から1976年に製作された日本映画のシリーズ。主演:志穂美悦子、製作:東映。
目次
1 概要
2 作品
2.1 女必殺拳
2.2 女必殺拳 危機一発
2.3 帰って来た女必殺拳
2.4 女必殺五段拳
3 製作
4 興行
5 評価
6 参考文献
7 脚注
7.1 注釈
7.2 出典
8 関連項目
9 外部リンク
概要
志穂美悦子の初主演でシリーズ化されたカラテ映画[1]。日本映画史上初の本格的女性アクション映画と評されている[2][3][4][5]。志穂美が空手を駆使して敵を倒していくモチーフは全作共通だが[6][注釈 1]、日本と香港のハーフである李紅竜を演じる第1作から第3作までをシリーズ全3作とするものと[7]、志穂美が京都西陣の織物問屋の一人娘・中川菊に役柄を変える『女必殺五段拳』を含めてシリーズ全4作とするものと[1]、文献により異なっている。
作品
女必殺拳
『女必殺拳』(第一作)
- あらすじ
日本と香港のハーフ・李紅竜は、行方不明となった香港警察麻薬Gメンの兄を探して日本へやって来る[6]。紅竜の必殺拳“乱花血殺”が巨悪組織に炸裂する。
- キャスト
- 李紅竜:志穂美悦子
- 早川絵美:早川絵美
- 李万青:宮内洋
- 藤田徹道:内田朝雄
- 響征一:千葉真一
- スタッフ
- 監督:山口和彦
- 企画:吉峰甲子夫・高村賢治
- 脚本:鈴木則文・掛札昌裕
- 音楽:菊池俊輔
- 製作:東映東京撮影所
- 国内興行
- 公開日:1974年8月31日
- 配給:東映
- 併映:『極道VSまむし』(主演:若山富三郎、監督:中島貞夫)
女必殺拳 危機一発
『女必殺拳 危機一発』(第二作)
- あらすじ
李紅竜は、行方不明となった高校時代の親友で大富豪の娘を探しに日本へやって来る[6]。
- キャスト
- 李紅竜:志穂美悦子
- 李白蘭:光川環世
- 大曽根一成:室田日出男
- 羅内幻十郎:安岡力也
- ヘシウス:苅谷俊介
- 藤田徹道:内田朝雄
- 宮本武夫:たこ八郎
- 椿俊輔:倉田保昭
- スタッフ
- 監督:山口和彦
- 企画:吉峰甲子夫・高村賢治
- 脚本:鈴木則文・掛札昌裕
- 音楽:菊池俊輔
- 製作:東映東京撮影所
- 国内興行
- 公開日:1974年12月7日
- 配給:東映
- 併映:『脱獄広島殺人囚』(主演:松方弘樹、監督:中島貞夫)
帰って来た女必殺拳
『帰って来た女必殺拳』(第三作)
- あらすじ
幼友だちの秀麗を探しに横浜にやって来た李紅竜は、秀麗が麻薬密輸組織のボスに麻薬患者にされていることを知り怒りを爆発させる[1]。
- キャスト
- 李紅竜:志穂美悦子
- 秀麗:川崎あかね
- 片平ミッチー:ミッチー・ラブ
- 湘徳輝:千葉治郎
- 王龍明:山本麟一
- 黒崎剛:倉田保昭
- スタッフ
- 監督:山口和彦
- 企画:吉峰甲子夫・高村賢治
- 脚本:鈴木則文・掛札昌裕
- 音楽:菊池俊輔
- 製作:東映東京撮影所
- 国内興行
- 公開日:1975年8月30日
- 配給:東映
- 併映:『トラック野郎・御意見無用』(主演:菅原文太、監督:鈴木則文)
女必殺五段拳
『女必殺五段拳』(第四作)
- あらすじ
京都西陣の織物問屋のひとり娘である中川菊は、空手に熱中し結婚話には耳を貸さない。道場の姉弟子ミッチーの兄ジムは、レストランの開店資金欲しさに悪の手先となっていく[1]。
- キャスト
- 中川菊:志穂美悦子
- ミッチー:ミッチー・ラブ
- 貝原喜一郎:汐路章
- 藤山隆三:川合伸旺
- 今川:片桐竜次
- ニッグ:サンダー杉山
- 高木修二:渡瀬恒彦
- スタッフ
- 監督:小沢茂弘
- 脚本:鳥居元宏・松本功・志村正浩
- 音楽:上柴はじめ
- 製作:東映京都撮影所
- 国内興行
- 公開日:1976年5月29日
- 配給:東映
- 併映:『お祭り野郎 魚河岸の兄弟分』(主演:松方弘樹、監督:鈴木則文)
製作
1974年2月26日、岡田茂は香港支社からアンジェラ・マオの出演了承の連絡が入ると[注釈 2]、鈴木則文を呼び、「マオを主人公にし、『緋牡丹博徒シリーズ』のカラテ版『女必殺拳』を作る。すぐに脚本の準備にかかれ」と指示[8]。日本語喋れないマオでも岡田は、この映画が売れると見込んでいた[8]。これを聞いた鈴木は「緋牡丹のお竜にあやかって、役名は紅い竜、『紅竜』としましょう」と即座に返答した[9]。彼らは東映京都撮影所で共に『緋牡丹博徒シリーズ』を製作した間柄であった[8]。鈴木は岡田の指示で映画『聖獣学園』など「ポルノ路線」の製作を東映東京撮影所でしていたが[10]、興行は不入りに終わる[8]。他にも3本企画を出すものの岡田に却下、家賃も払えず苦しい生活が続いたため、京都へ戻ろうとしていた矢先であった鈴木は[8]、岡田の配慮に感涙し、シナリオを書き始めた[11]。
数日のうちに共同脚本とプロデューサーが決まり、やがて「東映女カラテ新路線 香港女優で発進」と報道されると、千葉真一は鈴木則文に「アクション万能の少女がうち (JAC ) にいるから、今度の監督(鈴木)が撮るという映画に使ってください」と売り込む[9]。千葉が持ってきた16mmフィルムを試写すると[9][12]、トランポリンや器械体操に励む少女(志穂美悦子)が映っていた[12]。志穂美の一挙一動に魅せられた鈴木は、「必ず日本側の出演者で重要な役としてシナリオに書く」と千葉へ約束する[9]。アンジェラ・マオが不出演となったため[13][14]、鈴木は代役に志穂美を岡田へ推薦した[14]。
監督も鈴木則文が担う予定だったが、俊藤浩滋の要請で『日本仁義』という映画の脚本・監督を鈴木が手掛けることになり[注釈 3]、山口和彦が代わりを務めた[14]。脚本を鈴木と共に担当した掛札昌裕は、神田の古書店で日本のあらゆる武芸を紹介する『日本武道大鑑』という本を購入[15]。この書籍を活用して、紅竜が闘う相手武芸者のキャラクターを造っていった[15]。掛札は「シリーズはもっと続くはずだったけど、監督と脚本を代えたことで段々尻すぼみになった」と述べている[16]。
興行
日本では1974年8月31日に第1作『女必殺拳』が公開され大ヒットし、千葉真一・山下タダシの空手映画と同様にシリーズ化されていった[17]。東映は本シリーズを年間スケジュールの中でそれほど優遇していない夏休みの終わる時期などで公開していたが[7]、(東映の)想定していなかった女性層を中心に支持された[2]。鈴木則文が脚本・監督を務めた『トラック野郎・御意見無用』(シリーズ第一作)は、『帰って来た女必殺拳』と同時上映だったこともあり、「『女必殺拳シリーズ』のおかげで、まだ海のものとも山のものとも判らなかった『トラック野郎シリーズ』(の興行)を助けてくれた」と鈴木は回顧している[18]。
評価
志穂美悦子はその鍛えぬいた体技と清楚な雰囲気において、たちまち話題を呼んだ[2]。志穂美悦子はアンジェラ・マオよりもはるかに大柄で、長く美しい肢体をしていた[2]。動作の敏捷さとキレのよさが際立ち、大きく跳躍して、敵に向かって廻し蹴りを入れたり、そこから移して後ろ蹴りとなるとき、伸びきった足の美しさに観客は感嘆した[1][19]。同時に志穂美は、決してお色気に訴えることがなく、顔以外の肌を露出することはなかった[2]。女の武器を用いて男を籠絡することもなければ、弱者としての女の怨恨をこのときばかりに男に向けるという行為とも無縁だった[2]。男の敵を罵倒することもなければ、敵側が志穂美の役を女ゆえに嘲笑することもなかった[2]。
志穂美悦子のファンは圧倒的に女性で、男性ファンはほとんどいなかった[2]。彼女たちは志穂美のブロマイドを買い、熱烈なファンレターを書き綴った[2]。ブロマイド人気は1970年代を通して続き"悦っちゃん"は少女たちのアイドルの座にあり続けた[2][20]。本シリーズによって、志穂美は日本映画に於いて最初の女性功夫アクションスターの栄光に輝いた[2]。志穂美はそれまでの姐御肌のアクション女優のように、妖艶な雰囲気で男を誑かしたり、男への怨恨に満ちた啖呵を切るというタイプとはまったく違う女性アクションの道を拓いたといえる[2]。原駒子・松山容子・藤純子・梶芽衣子といった先行する女優たちとは一線を画し、攻撃性をむき出しにすることもなく、どこまでも清楚にして清潔な雰囲気のもと、優美にして健康的なアクションを披露した[2]。
参考文献
- ※異なる頁を複数参照をしている出典のみ。出版年順。
- 四方田犬彦、鷲谷花 『戦う女たち 日本映画の女性アクション』 作品社、2009年8月8日。.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit}.mw-parser-output .citation q{quotes:"""""""'""'"}.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/65/Lock-green.svg/9px-Lock-green.svg.png")no-repeat;background-position:right .1em center}.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg/9px-Lock-gray-alt-2.svg.png")no-repeat;background-position:right .1em center}.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/aa/Lock-red-alt-2.svg/9px-Lock-red-alt-2.svg.png")no-repeat;background-position:right .1em center}.mw-parser-output .cs1-subscription,.mw-parser-output .cs1-registration{color:#555}.mw-parser-output .cs1-subscription span,.mw-parser-output .cs1-registration span{border-bottom:1px dotted;cursor:help}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4c/Wikisource-logo.svg/12px-Wikisource-logo.svg.png")no-repeat;background-position:right .1em center}.mw-parser-output code.cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:inherit;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;font-size:100%}.mw-parser-output .cs1-visible-error{font-size:100%}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#33aa33;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-subscription,.mw-parser-output .cs1-registration,.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left,.mw-parser-output .cs1-kern-wl-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right,.mw-parser-output .cs1-kern-wl-right{padding-right:0.2em}
ISBN 978-4-86182-256-8。 - 鈴木則文 『東映ゲリラ戦記』 筑摩書房、2013年11月25日。
ISBN 978-4480818386。 - 鈴木則文 『下品こそ、この世の花 映画・堕落論』 筑摩書房、2014年。
ISBN 978-4-480-87379-8。
脚注
注釈
^ 主人公の李紅竜は少林寺拳法の達人という設定である。
^ マオはブルース・リーの妹役として人気があった[7]。
^ 俊藤の持ってきた企画は、映画化できずに終わった[14]。
出典
- ^ abcde『ぴあシネマクラブ 邦画編 1998-1999』 ぴあ、1998年、170 - 171頁。
ISBN 4-89215-904-2。
- ^ abcdefghijklm戦う女たち 日本映画の女性アクション、223 - 224頁。
^ 『日本映画俳優全集・女優編』 キネマ旬報社、1980年、354頁。
^ 沢辺有司 『悪趣味邦画劇場(映画秘宝2)』 洋泉社、1995年、50頁。
ISBN 978-4896911701。
^ “女必殺拳”. 日本映画製作者連盟. 2015年6月29日閲覧。
- ^ abc戦う女たち 日本映画の女性アクション、225頁。
- ^ abc戦う女たち 日本映画の女性アクション、218 - 224頁。
- ^ abcde東映ゲリラ戦記、142 - 143頁。
- ^ abcd東映ゲリラ戦記、144頁。
^ 東映ゲリラ戦記、133頁。
^ 下品こそ、この世の花 映画・堕落論、181頁。
- ^ ab下品こそ、この世の花 映画・堕落論、182頁。
^ 「可能性に最大限挑戦したい!志穂美悦子」『JAC特集号』第8巻第4号通巻34号、小杉修造、近代映画社〈別冊 近代映画〉(原著1982年3月5日)。
- ^ abcd東映ゲリラ戦記、145頁。
- ^ ab東映ゲリラ戦記、146頁。
^ 「掛札昌裕インタビュー」、『映画秘宝』、洋泉社、2007年10月号、 56 - 59頁。
^ 東映ゲリラ戦記、148頁。
^ 東映ゲリラ戦記、152 - 153頁。
^ 「'79ひと TV『柳生一族の陰謀』で人気の志穂美悦子 アクション開拓の"跳んでる"女優」『週刊朝日』 1979年6月22日号、166 - 169頁。
^ 「まだ1位にはなりたくないアクション女優 ブロマイド人気の志穂美悦子」『週刊朝日』 1975年6月6日号、16 - 17頁。
関連項目
必殺女拳士 - 志穂美悦子主演の1976年に製作された空手アクション映画
外部リンク
- 女必殺拳
女必殺拳 - allcinema
女必殺拳 - KINENOTE
Sister Street Fighter - インターネット・ムービー・データベース(英語)
- 女必殺拳 危機一発
女必殺拳 危機一発 - allcinema
女必殺拳 危機一発 - KINENOTE
Sister Street Fighter2 - インターネット・ムービー・データベース(英語)
- 帰ってきた女必殺拳
帰ってきた女必殺拳 - allcinema
帰ってきた女必殺拳 - KINENOTE
Sister Street Fighter3 - インターネット・ムービー・データベース(英語)
- 女必殺五段拳
女必殺五段拳 - allcinema
女必殺五段拳 - KINENOTE
Fifth Level Fist - インターネット・ムービー・データベース(英語)