宅急便








クロネコヤマトの宅急便の配送車


宅急便(たっきゅうびん)とは、ヤマト運輸が提供する宅配便サービスの商標である。黒いネコ、通称「クロネコ」をトレードマークにしている。同社の親会社であるヤマトホールディングスの登録商標(第3023793号ほか)である。




目次






  • 1 沿革


  • 2 名称の由来


  • 3 概要


    • 3.1 種類


    • 3.2 料金


    • 3.3 利用


    • 3.4 送り状


    • 3.5 その他のサービス




  • 4 宅急便に関連するエピソード


  • 5 ヤマト便について


  • 6 脚注


    • 6.1 注釈


    • 6.2 出典




  • 7 関連項目


  • 8 外部リンク





沿革



元々、当時の大和運輸(現・ヤマトホールディングス)は三越(現三越伊勢丹)や松下電器産業(現パナソニック)などの専属配送業者であったが、1960年代、全国に高速道路が整備され他社が長距離運送に参入していく中で大和運輸は乗り遅れ、ここにオイルショックが重なり、経営危機が噂されるほど業績が低迷した。
1971年に社長になった小倉昌男は、当時の運送業界の常識であった「集荷・配達に手間がかかる小口荷物より、大口の荷物を一度に運ぶ方が合理的で得」という理屈が誤りだと悟る。小倉は「小口の荷物の方が、1kg当たりの単価が高いのだから、小口貨物をたくさん扱えば収入が多くなる」と確信した。


また、当時、個人が荷物を送るには郵便局に持参する郵便小包(現在の「ゆうパック」に相当する宅配便サービス)があったが、重量は6kgまでであった。一方鉄道を利用する「チッキ」という制度があり、こちらは30kgまで送れたが、差出はしっかりと梱包し紐で縛って小荷物取り扱い駅に持参し、受取人は駅に取りに行かなければならないという制度であった。どちらも一つ一つの荷物の番号管理をしておらず、いつ届くのかさえわからないサービスであった。小倉昌男はこの状況を見て、サービスを向上させて参入すればライバルは存在せず、必ず成功すると確信した。


そして、1975年の夏「宅急便開発要項」を社内発表、瀬戸薫(当時27歳、グループ内最年少、後に2008年から2011年までヤマト運輸会長を務めた)を含む若手社員を中心としたワーキンググループが1975年9月から新商品開発を進めた[1]。1976年1月23日、「電話1本で集荷・1個でも家庭へ集荷・翌日配達・運賃は安くて明瞭・荷造りが簡単」というコンセプトの商品「宅急便」が誕生した[1]。当初は知名度が低く、「卓球便」と勘違いされたり、営業所のネコの看板から動物病院と思わたり、社員が「翌日配達できます」とセールスしても客に信用してもらえなかったりしたという[2]。1日目の取扱量は11個だったが[注釈 1]、その後急速に取扱量が増え、半年ほどで店に置ききれないほどの荷物がもちこまれる日も出るようになり、1976年度の想定取り扱いは20万個だったが、実際には170万個になった[1]。日本通運など他社も同様のサービスを開始した。全国津々浦々を網羅する営業所を作るには、警察が通報を受けて駆けつけるのと同じくらいの距離に営業所を置くのがよいとの考えから、1200署あった警察署の数を目標とし、取次店は郵便ポストの数を目標としたというエピソードがある。


その後も営業地域の拡大を続け、1997年には、小笠原諸島の父島・母島での営業開始をもって、離島を含む全国展開が完了した。


1990年にアメリカ合衆国の貨物航空会社大手UPSと提携、合弁会社「UPSヤマトエクスプレス」を設立をした際にヤマト運輸の営業所から日本国外に配送する「UPS宅急便」(現地ではUPSのドライバーが配達)というサービスもあったが、2004年に合弁解消と同時に終了し(日本国外への輸送に関しての提携は継続)。その後は「国際宅急便」を代替サービスとして提供している。




統一速達の宅急便の配送車


2000年(平成12年)から、中華民国の企業である統一速達とのライセンス契約により、日本国外へ進出した。なお、台湾でもセブン-イレブンが取り扱い代理店となっているが、これはセブン-イレブンを経営するのが、同じ統一企業グループだからである。


2010年より、東アジア及び東南アジアでの宅配便業界へ進出を始め、1月にはシンガポールと中華人民共和国上海市で事業を開始した。今後はマレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、香港、北京市などへの進出が計画されている。日本国外での名称は「TA-Q-BIN」としている。漢字文化圏では「宅急便」という名称も表記していく予定であるが、日本発ブランドとして差別化する意味もあり読み方として「TA-Q-BIN」も併記している。


2015年6月現在では、駐車禁止の規制強化とエコロジーの両面から、都心部では数kmおきに営業所を設置、営業所までトラック輸送した後、そこから先は自転車や台車で配達している。それ以前からも東京銀座地区など都心の一部ではリヤカーで配達している。京都市では京福電気鉄道と提携し、路面電車とリヤカーを併用して集配業務を行ったり[3]、岩手県では岩手県北自動車と提携し、トラック輸送の代わりに106急行バスの車両を改造して営業所へ輸送する試みも行われている[4][5]


宅急便の誕生以降、ほぼ一貫してサービスの拡充を続けてきたが、2010年代頃よりAmazon.co.jpでの取引の増加により、ECサイト取扱荷物数が急増した一方、特に個人宅の日中の在宅率の減少による再配達依頼も増えたため、従業員の長時間労働が問題となった。このため、2017年(平成29年)には運賃の値上げに踏み切ったほか、休憩時間確保のため、12時-14時の配達時間帯指定の廃止、運賃が割引になる「宅急便センター受け取りサービス」の新設など、一部のサービス内容が変更された。



名称の由来


「宅急便」には、「お宅に急いでお届けするサービス」という意味が込められている[2]


サービス名称には、他に「ハニーライン」「トゥモローサービス」「クイックサービス」などが候補に上り、最終的に「YPS[注釈 2]」と「宅急便」の2つが残った[2]。サービス開始当時はこの2つを組み合わせて「YPSの宅急便」と呼ばれていた[2](当時の宣伝チラシにこの表記がみられる[1][注釈 3])。



概要



種類


ヤマト運輸の「宅急便」の名称を含む宅配サービスには次のようなものがある。




クール宅急便の配送車



  • 宅急便

  • スキー宅急便

  • ゴルフ宅急便

  • 国際宅急便

  • クール宅急便

  • 国際クール宅急便

  • 空港宅急便

  • 往復宅急便

  • 超速宅急便

  • パソコン宅急便

  • オークション宅急便

  • 宅急便コレクト

  • 宅急便コンパクト

  • 宅急便タイムサービス


なお、「らくらく家財宅急便」というサービスがあるが、これはヤマト運輸が提供するサービスではなく、引越事業を行うヤマトHD子会社のヤマトホームコンビニエンスという別会社が提供するサービスであり、宅配便商品ではなく引越商品である(元々は「小さな引越便」という名称で、家具や大型家電を単品で送るサービスである)。またメール便は民間事業者による信書の送達に関する法律による制限が存在するため、郵便に代わるサービスではなく、あくまで宅配便の受領印をもらわず郵便受けに投函するというサービスとして位置づけられている。そのため送付物について「信書(手紙)でない」制限が設けられている。



料金


宅急便の料金は荷物のサイズ(荷物の大きさ・重さ)で決まる。現金、各種電子マネー、クロネコメンバー割(ヤマト運輸でのみ使用できる独自の電子マネー)等で支払う。



利用


営業所や取扱店(取扱いコンビニエンスストアを含む)への持ち込みあるいは集荷による。



送り状


宅急便の送り状は、一部ノーカーボン紙の複写式で綴りになっている。


発払用の送り状の構成は次の通り。


  • 請求書・ご依頼主控

お届け先欄、ご依頼主欄、お問い合わせ伝票番号欄、受付日欄、お届け予定日欄、希望届け日時記入欄、品名欄、領収印欄等がある。

  • 取扱店・CVS店控

現在の送り状では個人情報保護のために取扱店・CVS店控の票についてはお届け先氏名やご依頼主氏名など一部の項目のみが複写されるようになっており、郵便番号・電話番号・住所・品名等は取扱店・CVS店控の票には残らないようになっている。


  • 売上票

  • 貼付票

  • お届け先控

  • 配達票



配達時には、この伝票を外して届け先から受領印を貰う形になる。配達完了後は着センターで集められた後に保管される。

着払用では貼付票の中に請求書と配達票が入っている。宅急便コレクト用ではお届け先控が領収証になる。届け先へは貼付票以下の3枚が貼られた状態で到着する(売上票は発センターで集められた後保管)。



その他のサービス



  • 時間帯お届けサービス

  • 宅急便センター受け取りサービス


従来の「営業所止置きサービス」を事実上拡充したもので、受取人が宅急便センターに出向いて荷物を受け取る代わりに運賃が割引になる。

  • 複数口減額制度

同一あて先に2個以上の荷物を同時発送する場合、「複数口送り状」という専用伝票を用いれば割引を受けられる制度がある(通常の宅急便の扱いでかつ発払いの場合)。


宅急便に関連するエピソード



  • 宅急便のロゴのうち、「急」の一部が「急ぎ足」のようにデザインされている。

  • ヤマト運輸はトレードマークの「ネコ」に大変な愛着がある。そのためか、情報システムの名称も「NEKO(New Economical Kindly Online)」と名づけているほどである。社員も送迎バスを「ネコバス」と呼び、社員用の風呂のことも「ネコ風呂」と呼んでいるほどである。2008年後半から2010年1月まで放映されていた広告のキャッチコピーも「宅配はネコである」。CMも尻尾の生えたネコのような配送車が登場するなど、ネコへの愛着がうかがえる。

  • 『魔女の宅急便』というタイトルが「ヤマト運輸の商標権に触れて問題になった」と一部で話題になった。その原因は、原作者の角野栄子が、第1作刊行時に宅急便ヤマト運輸の登録商標である事を知らなかったためである。アニメ映画化に至っては、ヤマト運輸と正式なスポンサー契約を締結し、このアニメの映像を「こころを温かくする宅急便です。」のキャッチコピーと共に、そのままヤマト運輸の企業CM版も製作する事によって、この問題を解決している。なお同映画を基にした登録商標は、スタジオジブリが登録区分を別にして取得している。詳細は魔女の宅急便を参照のこと。なお、上述の通りヤマト運輸もクロネコに対して非常に強い愛着を抱いているが、同映画で登場する黒猫・ジジは、ヤマト運輸のトレードマークとは関係はない[8]。このトレードマークは、宅急便の開始以前から存在した。


  • 日本テレビの番組『史上最大!第6回アメリカ横断ウルトラクイズ』の第7チェックポイントのダラスでは、「テキサス宅急便早押しクイズ」が行われた。



ヤマト便について



宅急便とヤマト便は別のサービスであり、ヤマト便とは宅急便では扱えないサイズの荷物を送る輸送サービス(いわゆる貨物便、または路線便)のことである。



脚注


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注釈





  1. ^ 1996年のヤマト運輸の新聞広告では、11個をサービス開始3日間での取扱量としている[2]


  2. ^ ヤマト・パーセル(小荷物)・サービス(Yamato Parcel Service)の略である[1][2]


  3. ^ 当時の宣伝チラシが掲載されている記事[6][7]




出典




  1. ^ abcde“経済史を歩く34 宅急便誕生 ”. 日本経済新聞. (2013年1月6日). http://www.nikkei.com/article/DGKDZO50313980W3A100C1TY8000/ 2013年1月11日閲覧。 日本経済新聞1月6日付朝刊第11面

  2. ^ abcdef『朝日新聞』1996年1月1日付東京朝刊、22頁掲載のヤマト運輸「宅急便」広告より。


  3. ^ [クロネコヤマトの宅急便電車]路面電車を使った配達サービス 京都で開始 - Response・2011年5月18日


  4. ^ 路線バスを活用した宅急便輸送「貨客混載」の開始についてヤマト運輸 2015年6月3日


  5. ^ 路線バスで荷物も輸送 県北自動車とヤマト運輸岩手日報 2015年6月4日


  6. ^ 物流革新に勝ち続けた「クロネコヤマトの宅急便」強さの秘密 《宅急便40年の主な出来事》、@DIME、2017年9月18日。


  7. ^ 特集・進化する物流ビジネス最前線:もうすぐ40年! 宅急便のこれまでとこれから (1/3)、ITmedia ビジネスオンライン、2015年4月2日 7時0分。


  8. ^ 2005年11月9日・毎日放送知ったかぶりクイズ!あなた説明できますかより




関連項目



  • 宅配便

  • ゆうパック

  • ペリカン便

  • フクツー宅配便

  • 飛脚宅配便

  • カンガルーミニ便

  • トヨタ・クイックデリバリー



外部リンク



  • ヤマト運輸

  • 上記サイト内の宅急便の商品案内

  • 台湾における宅急便事業開始 プレスリリース

  • 宅急便(台湾)





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